ORIENTAL MATSURI LEVEL セルフレビュー(ラノベ風)

日記以外

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――どこか張り詰めていた空気が少しだけ和らいだな、そう思った。

スマートフォンから流れるアラームはデフォルト設定のままで、目を覚ました僕が最初に見たのは明らかに真っ暗な空間――いつも通りの僕の部屋――と、唯一と言っても良い明かりであり、そのアラーム音の発生源である、スマホ、だった。

まずいことになったな、と思う。

いつものように、手探りで部屋の電気をつけて、一呼吸を置く。その、時計の代用品である精密機器(スマホ)が映し出した画面には、天気予報とSNSのアイコン、そして1〜2回だけ遊んだ記憶があるゲームが色々と、それらに追いやられるように、隅には19:30の文字。予定通りだ。

息をすることをわざわざ意識することがないのと同じで、単調な音階の上り下りを繰り返すアラームは、かくして止められた。

あぁ、何よりもまず、話しておかないといけない事がある。

今回の音系・メディアミックス同人即売会イベント(そもそも音系・メディアミックスとは広範なジャンルではないだろうか――。)M3に参加するにあたって、僕が出す予定なのは、なんてことのないミニ・アルバムだ。アルバムと言っても4曲、2でも3でもなく、4曲だけの、本当に「ミニ」な作品だ。

この作品は、何か重大なテーマを語るかもしれないし、語らないかもしれない。それはロックでもあり、ポップスでもあり、正義や道徳でもあり、シリアスでもコメディでもあるし、ちょっとしたワクワクする日――例えば誕生日やクリスマスの前日のような――の空気でもあるし、要は何でもいい。

好きな情景を思い浮かべたらそれが答えだ、と思う。

ロックとは何か、誰にも分からないし、誰にでも分かる。どこにでも偏在するし、均等に分散もする。18歳の誕生日を迎える直前の、ごく一般的な恋する高校生の乙女心のように、僕は繊細で壊れやすいし、同時に乙男心(おとこごころ)みたいなモノもあるんだな、なんて実感が湧いてくる。

このアルバムでは、決して上手くはない声(ボーカル)が過剰とも言える歪み(ディストーション)を通って何かを呟いて、あるいは叫んでは、消えていく。後ろには、それなりに技巧を凝らしたチップチューンが一定のリズムを刻んで、まるで寂れた地方都市の駅に置いてありそうな木彫りの熊のように、当たり前のように無表情だった。

そういうわけで1曲目の「virtual yukata girl」はどこか気恥ずかしいような薄っぺらい恋愛を語っているけれど妄想だし、これがどこの街にでもありそうな「定食屋の中華そば」だとしたら2曲目の「enjou disco」では先程とは打って変わって高カロリーのエネルギーを持っていて、インスパイアされがちな山盛りの代名詞である「なんとか系ラーメン」に相違ない。

3曲目と4曲目はどうだったのか、忘れて全く覚えてないけれど、その晩に寝た女が、事を終えた後に取り出したタバコの銘柄はショートピースで、どこか妙に親近感が湧いたと同時に、小学生の頃にカブトムシを初めて捕まえた時から抱えている気持ち――焦燥感のようにじわりと熱を帯びて待ち焦がれた――が、どこかへ霧散してしまい、完全に消失していると、気付いたことだけは、鮮明に覚えている。

あの時の別れ際、僕は声をかけて引き止める事もできたし、そうすれば今頃はチップチューンではなく、ピアノクラシックや実験的エレクトロニカや、とにかく他の何かのディスクをリリースしていたかもしれない。

とまぁ色々語ったけれど、ここで、僕が言いたいことは、愛、だ。

嘘でも欺瞞でもいい、愛、はそこにある。

本当に少しでも感じ取れたのか、僕自身も分からないけれど、確かに、そこに、「それ」は、あった……。

既に部屋の電気はついているし、顔を洗って歯も磨き終えている。いつものようにドアを開けて、外へ出た。

アラームは止まっている。

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